糸で布を絞り
防染を施し
模様を染め出す。
一見、単純と思える手技が
古来より現代にいたるまで
わたしたちの美意識の水脈を
ひらいてきました。
しかもそれは
どの民族の染織史をひもといても
形をかえてあらわれています。
日本では、正倉院におさめられている
奈良時代の紋裂にはじまって
室町から江戸期の辻が花染め
総鹿の子絞りをへて
現代まで系譜がつづいています。
古代、中世の多くのものがそうであるように
絞り染めもまた
中国唐代の影響を受けており
その源流をたどれば
古代インドへむかうと言われています。
けれども、見方をかえれば
さまざまな民族や地域において
装う、ということへのおもいが
絞り染めという手技を生み
各民族独自の美学へ
昇華させている事実こそ
驚くべきだと思います。
今日、わたしたちに親しい絞り染めは
江戸時代の初期
寛文の頃に確立しました。
慶長小袖にみられる絞りから
布の凸型を故意に残し
あえて「しぼ」をみせる
いわゆる半製品をよしとする
近世の美意識が熟した時期です。
室町から江戸初期にかけては
日本のルネッサンス期と呼ぶに値する
あたらしい日本の価値観が生まれました。
茶道や数奇屋に象徴される
ものにとらわれない見立ての手法。
外来から移入したものを
トレースする手法に甘んじることなく
生活や風俗の中に
美を読み取ってゆく力と自信。
先達が獲得したことは
往時に学ぶことの多さを
現代にものを創ろうと志す者へ教えてくれます。
絞り染めに込められた美の精神もまた
時空間をこえて
わたしたちが常にたちかえっていく
永遠の原点でもあるのです。
京絞り寺田 主宰 寺田豊